かって気ままに ・・・

還暦を過ぎたITエンジニアの独り言。

かって気ままに

剪定

私の知り合いに樹木医を目指している者がいる。彼(A)は60歳から植物の勉強を始めた。植木屋さんになる学校にも行き、現在は植木屋さんをやっている。樹木医になるには試験に合格するだけではなく、7年間の植物の面倒を見た実績が必要らしい。従って彼が樹木医になるには70歳近くになる。それでも彼は夢と希望を持っているため若々しい雰囲気を持っている。

 もう一人の若い知人がいる。彼(B)も花が好きで、家の庭に花畑を作っている。パンジーの花壇で賞をもらったこともある。彼も植物、特に花には詳しい。その彼から聞いたところによると、緑・花試験というものがあり、この試験は単に植物学的とか植木、ガーデニングの知識だけでなく、緑・花についての文学的、歴史的、文化的知識も要求しているらしい。この試験で彼は60点程度だったそうだ。ところが樹木医を目指しているAはあまりできなかったといいながら80点も取っていたそうである。到底かなわないといっていた。

 このAにある人が庭の木の剪定を頼んだ。この方はソフトウエアのプロであり、一流のSEである。この方は、ある一本の木を大事にしていた。十数年自ら剪定をしていた。剪定とは、樹木本来の特性を生かしながら、美しい樹形を作り、維持することが目的である。しかし彼の剪定ではどんなに頑張っても期待した樹形にはならなかった。そのときBからAのことを聞き、剪定を頼んだ。Aが剪定すると木は見違えるように形良くなった。そこでAに剪定のコツを聞いたところ、Aが一つだけ云った。

「上に伸びようとする枝はできるだけ切り、横へ向かおうとする枝はできるだけ切らないことです。」

 これは彼がこれまでやってきたことと逆であった。切ったほうがよい例としてふところ枝、逆さ枝、からみ枝、交差枝等についても教えてもらった。彼は横に伸びている木を切っていた。そのため樹形は細く、貧相になっていたのである。そのときにAが面白いことをいった。

 「組織を育てるのも同じでしょう。幹がまっすぐに伸びて、枝が横に大きく張っている組織が伸び伸びとして、豊穣な結果を出すでしょう。横に伸びるものを切って、ふところ枝のようなものを切らないと組織は複雑になり、外部からは貧相に見えます。アウトプットはでなくなるでしょう。」

 組織におけるふところ枝やからみ枝に相当するのにはイエスマン、迎合派、おべっか派、上位志向官僚タイプ、暗躍派、中傷派、奴隷派などがある。このような組織は幹の周りに枝が絡みつき、一見内部では居心地が良さそうであるが、外から見ると痩せた、品のない様相を呈する。

 プロジェクトで注意しなければならないことは、横に大きく伸びる、様々な能力を持ったメンバーにその活動する場を与え、結果としてプロジェクト目標を達成することにある。その中でふところ枝や逆さ枝などの不要な枝はコミュニケーションを阻害し、プロジェクトを立ち枯れさせてしまう。

 しかし、植木の剪定と同じように、誤った剪定がプロジェクトの失敗にいたる例は世の中に数多い。アマチュアの植木ならば誤っても、本人が多少不満になるだけで、影響は少ないが、プロとしてのプロジェクトマネジャーやその上位部門が組織剪定の本質を理解していないと、良かれと思ってやったことが組織を破壊したり、ジリ貧にすることもある。自戒しなければならない。